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去る2008年5月3日、IPPUQのななおさん主催の絵チャに参加しました。『仮想劇場版電脳コイルスペシャル』と題して、映画イメージポスターを参加者の皆様、ななおさん、もちさん、平成ホームズさん、月音さん、浅香さんなどが描きました。その時の絵は、平成ホームズさんのサイトにございます。
この時私は、タイトル・ストーリーを考案しまして、皆様はそれを基に描かれました。とても嬉しかったです。それから私は、自分の中でこの作品の物語を構想し続け、ついに二次創作小説として連載する事にしました。
ちなみに、声優をつけるとしたら、下の通りです。
登場人物
ヤサコ(折笠富美子)、イサコ(桑島法子)、ハラケン(朴 ろ美)、オバちゃん(野田順子)、メガばぁ(鈴木れい子)、京子(矢島昌子)、フミエ(小島幸子)、ダイチ(斉藤梨絵)、ナメッチ(沼田祐介)、ガチャギリ(山口真弓)、デンパ(梅田貴公美)、アキラ(小林由美子)、タケル(日比愛子)、アイコ(進藤尚美)、モジョ(進藤尚美)、オヤジ、小此木静江・一郎(金月真美、中尾みち雄)、マイコ先生(堂ノ脇恭子)、ウチクネ先生(西脇保)、ダイチチ(郷里大輔)、イサコの叔父・叔母(麻生智久、進藤尚美)、トメさん夫妻(片岡富枝)、マユミ(うえだ星子)、アナウンサー(坂口哲夫)、民家のおじさん・守衛さん(福原耕平)、猫目宗助(遊佐浩二)
ここより先、完全妄想キャスト
ヤエ(皆口裕子)、キヨコ(能登麻美子)、エージェント・H、K、N(大塚明夫、坂本真綾、江原正士)、御前様(俳優・寺尾聰)、ハッカー・イ、ロ、ハ(緑川光、阪口大助、高木渉)、暗号屋Z(千葉繁)、チーフ・タチバナ(榊原良子)、ニュースキャスター・T(NHKアナ・登坂淳一)、ミズキ(漫画家・水木しげるか槐柳三)、アラマタ(小説家・荒俣宏か山寺宏一)、オノ(大塚芳忠)、ハタ(竹本栄史)、カツラギ(大塚周夫)、オオトモ(稲田徹)、イシハラ(磯部勉)、ベルギー人新聞記者(山寺宏一)、ナギ(田坂秀樹)、ヒュウガ(山寺宏一)、イセ(屋良有作)他多数
この時私は、タイトル・ストーリーを考案しまして、皆様はそれを基に描かれました。とても嬉しかったです。それから私は、自分の中でこの作品の物語を構想し続け、ついに二次創作小説として連載する事にしました。
ちなみに、声優をつけるとしたら、下の通りです。
登場人物
ヤサコ(折笠富美子)、イサコ(桑島法子)、ハラケン(朴 ろ美)、オバちゃん(野田順子)、メガばぁ(鈴木れい子)、京子(矢島昌子)、フミエ(小島幸子)、ダイチ(斉藤梨絵)、ナメッチ(沼田祐介)、ガチャギリ(山口真弓)、デンパ(梅田貴公美)、アキラ(小林由美子)、タケル(日比愛子)、アイコ(進藤尚美)、モジョ(進藤尚美)、オヤジ、小此木静江・一郎(金月真美、中尾みち雄)、マイコ先生(堂ノ脇恭子)、ウチクネ先生(西脇保)、ダイチチ(郷里大輔)、イサコの叔父・叔母(麻生智久、進藤尚美)、トメさん夫妻(片岡富枝)、マユミ(うえだ星子)、アナウンサー(坂口哲夫)、民家のおじさん・守衛さん(福原耕平)、猫目宗助(遊佐浩二)
ここより先、完全妄想キャスト
ヤエ(皆口裕子)、キヨコ(能登麻美子)、エージェント・H、K、N(大塚明夫、坂本真綾、江原正士)、御前様(俳優・寺尾聰)、ハッカー・イ、ロ、ハ(緑川光、阪口大助、高木渉)、暗号屋Z(千葉繁)、チーフ・タチバナ(榊原良子)、ニュースキャスター・T(NHKアナ・登坂淳一)、ミズキ(漫画家・水木しげるか槐柳三)、アラマタ(小説家・荒俣宏か山寺宏一)、オノ(大塚芳忠)、ハタ(竹本栄史)、カツラギ(大塚周夫)、オオトモ(稲田徹)、イシハラ(磯部勉)、ベルギー人新聞記者(山寺宏一)、ナギ(田坂秀樹)、ヒュウガ(山寺宏一)、イセ(屋良有作)他多数
「異界からの旅人」
序章 記者の日記
これは、オランダ・アムステルダムで発見された、とあるベルギー人新聞記者が残した、彼の地における記録のある日記。その内容の一部である。
「その日の昼食時(年月日不明)、新京(現・長春)のホテルで私(記主)は朝鮮人の友人から、おかしな情報を入手した。奉天(現・遼寧)郊外で、化石の発掘が行われているらしい。しかしどういう訳か、軍隊が現場周辺を警固し、近くの道路でも検問が布かれている。噂では、新種の恐竜らしい。何故そんな事をするのか?
そこで私は、友人の制止を無視して、現場に潜入取材を試みた。早朝に新京から特急「あじあ号」に乗って向かい、正午過ぎに、ドイツ人と偽って奉天の街に入った。
家が現場近くと言う現地農民の協力で、馬車の荷台に隠れ、検問も突破。途中で降ろしてもらい、草むらを隠れながら、稲や小麦の田園を抜け、荒れ地に辿り着いた。そこが発掘現場であった。
聞いた通り、日本兵が至るとこに、銃を手に険しい目つきで、周りを見回していた。警固というより、監視である。その下では、多くの労働者達がスコップやつるはしで穴を掘り、荷車や背負子で土を運んでいていた。
それにしても、おかしい。発掘にしては、鉱山採掘と言う感じの労働で、考古学者らしき人物の作業が、一人も見えない。穴の中でも無造作に土を掘り出し、慎重かつ丁寧な手作業をする者など、いなかった。ひょっとすれば発掘は偽装で、実は、秘密基地建造なのでは、と思った。
遠くを双眼鏡で見れば、旭日旗を掲げたテントが設営され、中から研究者らしき人物二・三人と場違いな日本人将校が現れた。紙を片手に、何かを話し合って、崖を指さしていた。
指さす先の地層が出ている崖には、別のテントに覆われ、どうやらあそこが本命の〝秘密〟らしい。テントの周りには、どこよりも多くの日本兵が睨みを利かせ、端から研究者がヒョッコリ抜け出て来た。
中を見てみたい。そう思いに駆られ、誘導作戦を仕掛けた。
テントから離れた場所に、いっぱいの爆竹を用意し、長い導火線に着火。崖のテントに近づき、時を待った。
バンバンと、爆音が鳴り響き、誰もが音のする先を見たら、
『敵襲!馬賊だぁ!ソ連のスパイだぁ!』
私は日本語でメチャクチャに叫び、連中を混乱させた。兵士達は音源に向け戦闘態勢で駆け出し、労働者達は持ち場を離れ逃げ出し、研究者達は書類を持って慌てだした。
案の定、崖下の現場からも人影が逃げ出した。今がチャンスだった。転びそうになりながら迫った。カバンからカメラを取り出し、テントの端をめくろうとした。
その時、後ろから近づく影が見えた。人影だった。振り向けば目の細い、無表情の日本人将校が、こちらを見下ろしていた。もうダメだと、覚悟を決めた。
待っていたが、改めて見れば、ジッと見ているばかりで叫ばない。銃も持ってない。日本刀も抜こうとはしなかった。見ているばかりで、何も言わず立っているばかりだった。
『見たか?』と突然、彼はドイツ語で話しかけながら寄って来た。驚いて『はい?』と思わず母国語(ベルギー語)で答えてしまった。
『ドイツ語はわからないか?』
『いえ、わかります。中は、まだ見てません』
『そうか。それでは見せてやろう』
彼は私の横を抜け、テントに近づいた。何かの罠かと思い、混乱してしまった。
『私の名前はイシハラだ。お前を見逃してやろう。バラしても構わん』
『どうしてですか?』
『君は、何があると思って来た?』
『新種の恐竜の化石だと。でも、ひょっとして、秘密基地だったりして』
『基地なんぞ無い。だが、君が何者だろうと、何をしようと、何も変わりはしない。世界も、時代も、歴史も、変える事なんて、人間には無力だ。誰にも。そして今、君の眼前にあるのは、夢と言う事実だ』
そう言ってその将校は、バッとテントを開けて、中を見せてくれた」
そこで日記の内容は、途切れる。
第一章 黒い出会い
ネットの噂によると、古い伝統あるモノの電脳化に限って、作る過程や使用で、原因不明の障害が起き易いそうです。
○
ミーン、ミンミンミンミン、ミーン。ミーン、ミンミンミンミン、ミーン
ツクツクボーシッ、ツクツクボーシッ、ツクツクボーシッ、ツクツクボーシッ
ジ――――ワッ、ジ――――ワッ、ジ――――ワッ、ジ――――ワッ
真っ青な夏空には、はち切れそうな入道雲が、ムクムクモクモクと立ち上り、街を見下ろしていた。山々に囲まれた古都・大黒市。
プワァ――ン、ガタンゴトンッ、ガタンゴトンッ
『まもなく、四番線ホームに、列車が入ります。危ないですので、白線の内側に、お入り下さい』
ホームの上から聞こえるアナウンスが、駅舎の高架下にも響いた。その響きは彼らにも届き、一同ワクワクとした高鳴りが、各々で胸の奥からしていた。
ズウゥ―――ンッ、キギ――ッ……プッシャ――ッ
ゾロゾロと乗客はホームに降り立ち、黙っている者、話をする者、メガネ操作をする者と色々。
そんな中を、紺色の大きなバッグを肩に掛ける一人の少女が、人込みをかき分けて、真っ直ぐ階段に歩んだ。バッグを持つ本人自身は、辛そうな顔を見せていなかった。
勝手知る場所の足取りで、ズンズン進んだ。髪を降ろした、凛とした顔立ち。デニムの上下の服装で、大人びた空気を醸し出していた。
難なく改札口に辿り着くと、掌を自分に向けた。彼女にしか見えていなかったが、彼女のかけているゴーグル型メガネを通してみれば、小さな切符が存在していた。電脳の切符だった。
切符を改札入口の赤い四角い枠に乗せると、フッと消え去り、枠は緑に変わった。それで、良かった。
改札を通過し、彼女は立ち止った。何かを探す素振りで、キョロキョロ駅前を見回した。少し不安な表情で、首や瞳を動かし、メガネも使おうかと手先が動こうとした。
「イサコッ!」
その声で、ビクッと飛び退くぐらい驚き、膠着しながら左に顔をゆっくり向けた。
ニコニコする四人が迎え、というより待ち構えていたようにいた。
「おかえり、イサコ」
「……たっ、ただいま、ヤサコ……」
恥ずかしそうにイサコは、顔を正面に戻そうとした。それでも、気にせず、満面の笑みのヤサコとハラケン、イサコの叔父叔母夫婦が、ニコヤカにスタスタと寄って来た。
そんな動きに余計イサコの顔は、赤くなっていった。
「おかえり、イサコ」
ハラケンも、暗い顔の中で微笑みかけた。
「おかえりなさい、勇子。疲れたでしょ?車に乗りましょう。またその服ね。まぁいいわ。家に着いたら色々用意してあるわよ」
「おかえり、勇子。荷物持とうか?」
二人の老夫婦も、優しげに聞いて来てくれた。
「あっ、ありがとう……でも、大丈夫」
イサコは毅然と振舞おうと、お迎えに向きを直し、五人で駐車場に歩き出した。
「それにしても、ヤサコ達まで迎えなんて、聞いてないわ」
「ごめんなさい。驚かそうと思って。でも、おじさん達と会って、一緒にやろうって」
嬉しそうなヤサコの顔に、ウンザリしそうにはなったが、いつもと変り無さに、安心も起こった。
「勇子、お母さんは元気かい?便りを聞かないんだが」
心配な顔を叔父は覗きながら、イサコの隣に寄り添いながら歩いた。
「うん、大丈夫。仕事忙しいけど、体調も前より良くなった」
「そうか、そうか。少しは安心したよ」
僅かであったが、微笑みが戻った。
「どれぐらい、大黒にいるの?」
次に、イサコの前を歩く叔母が、問いかけて来た。
「う~ん。できるだけいたい。そう、鹿屋野神社の夏祭りには行きたい!」
振り向く叔母の顔は驚き、すぐに笑顔となった。今までそんな、「笑顔」の表情は見せなかったのに、さらには叔母に対してその顔は出さなかったので、嬉しさがあった。
「えっ!夏祭りに参加するの?」
またしてもヤサコが満面な笑みを見せた時は、叔父の車の前に来ていた。
「う、うん……結構、楽しいし」
「良かったぁ。前よりきっと、楽しいわ!浴衣姿、また見たいわ」
ヤサコのオーバーとも思える反応に、イサコもちょっと驚いたが、自分でも、この反応には驚きの反面、喜んでくれる他人の存在に、「感謝」が沸き起こった。
「きっとみんな、フミエやダイチも喜ぶよ」
すかさずハラケンが、ボンヤリ立ちながら、話題を大きく挟んで来た。しかし、その内容にイサコは、ちょっと考え直し、あの二人には今だ、心を許されていないだろうと思い出し、素直に喜ぶべきか、返事を渋った。
「さあ勇子。行きましょう」
いつの間にか乗っていた助手席の叔母が促し、エンジン音の音が響いた。
「うん」
素っ気ない返事だったが、後部座席に荷物をドサッと入れ込み、乗り込んで戸を閉めると、スーッと窓を開け、残るヤサコとハラケンに顔を出した。
「明日は川辺でバーベキューね!」
先に声をかけたのは、ヤサコの方からだった。
「みんなで待ってるよ」
ハラケンも付言するように、言葉を添えた。
「決まってる。楽しみの一つだから」
「皆さん。お迎えに来てくれて、ありがとう。明日は車で勇子をお送りします」
「また明日」
イサコがそう言い終えると、すぐに窓を閉め、奥に腰を動かした。そのまま、車は発進し、駅前ロータリーから大通りに向け走り去った。
○
ロータリーに残る二人は、しばらくボンヤリ立ったままで、少し顔を見合わせると、クスクスと笑い出してしまった。
「少し変わったね。イサコ」
「そう?」
いつの間にか歩み出した二人に、ハラケンの疑問から会話が生まれていた。
「最後に会った時より、笑ってた」
「前も結構、笑ってたわよ」
「いや、前は、何て言うか、〝作った笑顔〟な感じに思えたんだ。自分の正直な部分を隠していたように見えた。でも、さっきのは、本当に嬉しそうな笑い方だったから、変わったなぁ、って思えたんだ」
「……そうかもね。うん。その方が、あたしも嬉しい」
会話は途切れたが、ゆっくり歩む二人は、楽しそうな背中を揃ってしていた。
「待ちなさいよっ!チビスケーッ!」
「るっせ―っ!ブスエッ!」
ふと気付けば、道の向こうからいつもの騒がしさが、揃って走って来た。中学生になっても変り無いフミエとダイチである。
競って走る小柄な二人は、お互い睨み合いながら、それでいて真っ直ぐ駅に直進していた。そのせいか、前方のヤサコ達にまだ、気付いていないようだった。
ヤサコ達の横をすり抜けた直後、二人はほぼ同時に急停止して、振り向いた。ようやく気付いたらしい。
「あら、ヤサコッ!どうしてここにいんの?」
「おっ、ハラケン!何だ、ヤサコと一緒で?」
揃って声をかけると、お互いにムッとした顔を向け、プイッとそっぽを向いた。
「うん、駅でイサコを迎えに、ハラケンと一緒に行って来たの」
「そうなんだ。もう、イサコの叔父さん達と一緒に、家に行っちゃったから、僕達帰るところ」
二人の言葉にフミエ達は、眼を丸くし、度肝を抜いたような顔を、またしても揃って見せた。
「「なっ、何だってーッ!もう行っちゃったのーッ!おいちょっと!お前が邪魔しなきゃ、間に合えたはずなんだぞ。どうしてくれるんだっ!」」
面白い具合に二人の声と仕草が、向かい合わせで同じになり、ヤサコとハラケンは思わずプッと笑ってしまった。
しかも、二人とも、嫌いなはずのイサコを迎えに行こうとして、途中で鉢合わせになってしまったらしい。何だかんだ言って、やはり二人とも、イサコを悪くは思えないらしい。
「だったら、ここで決着つけましょ。ダイチッ!」
「望むとこだ、フミエッ!」
バッと二人は向き合いながら一歩下がり、電脳戦の構えを見せた。
「ちょっと、止めてよ二人とも」
「ヤサコ、黙ってて。もう今日と言う今日は、我慢できないのよ」
いつもの台詞に聞こえるフミエの言葉とも、ヤサコには思えた。
「あぁ、そうだよ!第一、もうサッチーいないんだから、ここでバトルしたって、誰も―」
「えっ、聞いてないの?」
ハラケンの何気無い一言に、その場の空気はゾクッと緊張した。
「昨日大黒市が、改めてキュウちゃんだけを再導入するって、掲示板に出していたよ」
「…………えっ?そっ、それって、ここで違法な電脳技、使おうとしたら……」
っと、ヤサコが言いかけた直後、
……ヒューン…ヒューン……
道路の向こうから、懐かしい球体が四人に飛んで迫って来た。キュウちゃんである。しかも、二基。
その迫る敵に四人は固まり、フミエ達に至っては、お互い視線で無言の会話を交わしたかと思うと、
「じゃっ、じゃあ、また明日、川辺でっ!じゃあね、ヤサコ!」
「おう、じゃあなっ!決着はお預けだ―ッ!」
そう言うが早いか、二人とも、どこかへ走り去ってしまった。
残されたのは、またしてもヤサコとハラケン。また顔を見合うと、クスッと笑い、何も言わずコクリと頷くと、帰路に向かってバッと走り出した。
無論、キュウちゃんは誰かを追いかけるに決まっている。もっとも、四人には後ろを振り向く暇が無いので、追跡しているのかはわからなかった。
そんな不安な状況でも、ヤサコとハラケンは、横の人と一緒に走って逃げている事が、楽しいようにも思えた。口には出さずとも、そうだった。
○
日差しの強い午前。キラキラと川の水が輝きながら流れ、蝉がけたたましくなる中、草むらの多い砂利の広がる川辺に、バーベキューする一団がいた。
ヤサコ達である。ハラケンやイサコ、フミエにダイチ、アイコ、京子、ヤサコの両親、大黒黒客のガチャギリ・ナメッチ・デンパ・アキラ、玉子オバちゃん、タケル、イサコの叔父叔母、ダイチチにマイコ先生、呼んでもいないウチクネ先生だった。メガばあも行きたかったが、腰の具合で自宅療養だった。
みんなの恰好は、それほど去年と変わりが無かった。とは言え、男子の短パンは見られなく、長ズボンがほとんど。ダイチに至っては、へそは出していない。女子達はかなり大人びて、赤や黄色のキャミソールやタンクトップが多い。イサコは水色Tシャツを着て、黒い膝までのピッタリしたズボンを穿いていた。叔母が用意してくれたようだった。
あの一連の「メガネ事件」後、変化は多少あったが、相も変わらずといった具合だった。
メガばあの腰はあまり良くなく、杖を使うようになった。と言っても、いつもの性格は健全で、スキルもさらにアップした。
タケルはハラケンの家に御厄介になっており、ハラケンとは仲が良いらしい。それでもやはり、兄・宗助を忘れず、健気に行方を捜し続けている。
オバちゃんは金沢の技術系大学に入学し、大黒から通っている。家族は東京か関西の大学に行ったらと勧めたが、「この街が気に入ってるので」という理由で断った。本心はハラケンから離れたくないからで、しかも最近はタケルも心配らしい。
大黒黒客はダイチの下、中学生になっても同じメンバーで結成しており、新部員の見込みは無いそうだ。目的も、メタバグの稼ぎと違法な電脳技術向上。同じままだった。「チビスケ」とは言われたが、少し背の伸びたダイチは、柔道部ではかなり優秀らしい。
京子の「ウンチ!」は、もう小学生になったので、滅多な事では言わなくなり、学校では人一倍優しい子と、言われているらしい。ヤサコの当面の不安は、メガばあが京子を、電脳探偵局会員番号九番として入会させようとしている事。
フミエは文学に興味を持ち出したらしく、アイコと一緒に文学部で創作小説を書いている。ただ作品テーマは、架空戦記や宇宙戦争といった激しい戦いのある、SF小説だそうだ。探偵局は変わらず参加し、活発な少女である。
そしてハラケンは、あの一件後も寡黙なのはそのままだが、笑顔が多くなって、体調も良好だった。ヤサコと一緒に民俗文化研究部を立ち上げ、仲が好い。ただハラケンは、研究に没頭しやすく、部員は少ない。
○
「それにしても、天沢さん。元気そうで良かったわ」
「あっ、ありがとうございます、マイコ先生」
マイコ先生との久しぶりの再会に、イサコは照れくさそうに下を向いてしまった。
「さあさあ、良い焼き加減ですよ。皆さん遠慮なさらず、食べて下さい!」
ダイチチが長い箸を手にコンロに向かって、満面の笑顔でみんなを招いた。
「しかし町内会長さん、ここでは火の取り扱いは制限されているんじゃあ?」
「大丈夫ですよ、ウチクネ先生!私が全面的に許可しましたから。ガッハハハハハ」
こういう時は、持つべき者は町内会長さん。っと、誰もが一瞬、思ってしまった。
「おいっ、子供共!ちゃんと野菜も食わんと、肉抜きだからな!覚悟しておけ!」
ムーっと真っ先に膨れたのは、ニンジン嫌いの京子だった。そして、子供達はさっきの一瞬の思いを、すぐに取り消した。
「いっただきまーす!」
みんなが一斉に食事の挨拶をすると、一斉に箸をコンロの上にのばし、各々の紙皿に乗せた。
コンロには、ジューシーに焼けたや焼き肉や骨付きカルビ、豚トロ、手羽先、あら挽きソーセージ、アルミでレモンと一緒に包んだニジマスの蒸し焼き、焼きイワナ、アサリ、ニンジン、ピーマン、シイタケ、マイタケ、玉ネギ、アルミで包んだバターとジャガイモ。さらにそばでは、ダッチオーブンで焼いたパン、飯ごうのご飯も用意されていた。
誰もが、バーベキュー料理に舌鼓を打って喜んだ。しかも味付けは、ナメッチの料理の腕の賜物でもあった。
「ナメッチってホントお料理、上手よね!」
「本当、とくに味付けが絶妙よね!」
アイコやマイコ先生など女性陣は、揃って絶賛した。
「いっ、いやぁ。あんまりこういう料理より、カレーとかあり合わせで作れるようなのが、好きッス」
「そうそう、ングッ、前に作ったカレー、すんげぇウマかった。でも、これもかなり、モグッ、ウメェぜ」
「美味しい、美味しい」の言葉が飛び交い、賑やかさは一層強まった。ほとんどが立ち食いで、イサコの叔父叔母やヤサコの母はパイプ椅子に腰掛け、横には調味料や飲み物を乗せたクーラーボックスのテーブルが置かれてあった。
京子は我慢しながらニンジンを口に入れ、ダイチ達も嫌々野菜を頬張った。食べなければ、せっかく楽しみの肉が食えないのだから、たまったものではない。
「ねえねえ、聞いた聞いた?例の子の恋事情」
「今大学では、身体的影響のレポートを書いてます」
「そのメタバグ、音もいいけど、色もキレイなんだ」
「へぇ~、ムグッ、金沢でも稼ぎは良いんだなぁ」
「はいあなた。アサリとしょう油」
「今日はオフでも、子供の前ではビールは飲めませんよ~」
「え、僕?嫌いなものは、とくに……原川さんちはみなさん、優しいです」
「ええ、金沢にも友達はいますよ。一人だけですけど」
各々、隣同士で会話を楽しみ、食事は盛り上がっていた。
ヤサコがふと気がつくと、イサコの叔母が少し涙ぐんでいた。彼女の視線の先には、マイタケを食べながら、京子と戯れているイサコの姿があった。とても楽しそうな笑いが、叔母には嬉しいようだった。涙の訳を、確かめたいともヤサコには思ったが、それは触れるべきでないと考え直し、食事に戻った。
食事が一段落すると、女性陣はコンロの周りで井戸端会議のように雑談が始まり、男性陣は川岸に寄って行った。
すると、ダイチチがおもむろに、足元の平たい石を手に取ると、一気に向こう岸に目がけて水面に投げ飛ばした。石は水生の生き物のようにジャッジャッと、五回飛び跳ねた。
この遊びに男子達は、一同に驚いた。今まで見た事の無い曲芸を目にしたような面持ちで、流れる川面を見ていた。
「とっ、父ちゃんすげえ!」
「へっ、ざっとこんなもんだ!」
今度はウチクネ先生も、「ならば」と石を投げたが、二回で沈んでしまい、シラーっとした空気に変わってしまった。続いてヤサコの父は、四回だった。
こうなれば男子達も黙ってはいられず、みんな見よう見まねで、次々と石を投げ飛ばした。しかし、やり方をちゃんとは知らず、全員が一回で沈んだ。
そんな情景を、遠くから女性陣は眺め、男と言う連中の熱中ぶりを理解しようとした。
「何でああやって、無気に何のかしら?まぁ、ダイチなら当然かもしれないけど」
「本当よねぇ」
フミエとアイコは、意見が同調して、呆れていた。
「ハラケンやタケル君までやるなんて」
ヤサコは理解に答えが、まだちゃんとは理解を見つかってなかった。
「でもね、ああいう事をして、楽しんだりするのが、男ってものよ」
「そうですね。昔は、私も友達とよく張り合いましたよ」
ヤサコの母と同意見をしていたのは、体を楽にするイサコの叔父だった。
見ていれば、男子達は大人から教わった方法で、すでに上達し、ほとんどが五回飛びを一回はしていた。
「ホーッ、うまいもんだな」
「父ちゃんよう。俺達の電脳技には、モノを投げる動きがあって、投げ方によって真っ直ぐ行かなったりすんだよ。それと似たようなもんだよ」
「なるほど。飲み込みが早い訳だ」
これには大人達も驚き、納得した。
すると、いつの間にか、男性陣にイサコが混ざっており、男子達は無表情な顔のイサコ気づき、手を止めた。
その瞬間、イサコの手から石が飛び出し、川面を飛び跳ね続けた。
ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ、チャッ、チャッ、チャッ、シャ―――ッ、コツンッ
七回は行ったかと思うと、最後辺りでスーッと水面を滑りながら、向こう岸そばまで行ってしまった。それには、大人も驚き、思わず手から石がこぼれ落ちてしまった。女性陣も同じく驚いた。
何も言わずイサコが女性陣に戻ると、残された男達はほぼ一斉に、石を銃弾のように川面に投げ続けた。余計その情景に、女性陣は呆れ返った。
戻って来たイサコは一瞬で、驚きの顔に変わり、辺りを見回した。
「どうしたの、イサコ?」
その仕草に、ヤサコは気付いた。
「おいヤサコ!京子はどこに行った?」
「え?」
ヤサコも周りを見れば、さっきまでいた京子の姿が、見当たらなかった。
「大変!京子がいない!」
そのヤサコの衝撃に、ヤサコの母も思わず立ち上がってしまった。
「えっ!きょっ、京子が!はっ、早く探さないと!もし、川にでも落ちていたら……!」
二人の混乱状態は、狂気と紙一重にも見えた。
「おおっ、落ち着いて下さい。まだそんなに、遠くに行ってはいないと思うけれど…」
落ち着かせようとするオバちゃんも、半ば挙動不審だった。
「探すなら簡単な方法がありますよ」
その慌て振りに、フミエは落ち着いて答えた。
「メガネのGPS機能で探せばいいじゃない」
「あっ、そうか!それがあったわ!」
ヤサコも落ち着きを取り戻し、メガネでウィンドウを開き、位置を確認した。もっとも、メガネをしていない大人達には、何をしているのかわからず、それに頼っていいのかも、わからなかった。
ウィンドウの地図では、川と川原が映り、自分達の位置と、京子の位置が出て来た。京子の位置は少し離れた上流の岸におり、水の中ではなかった。
「よかった、川の中じゃないわ。向こうにいるみたい。あたし、迎えに行って来る」
そう母に言うと、ヤサコは駆け出し、母は見送るしかなかった。
「おい、ヤサコ!私も行く!」
「あっ、待って、アタシも」
続いてイサコとフミエも、後を追って走った。それにハラケンも気づき、石投げを止め、同じように後を追った。疲れだしたダイチとデンパも気づいた。
ちなみにマイコ先生は、泥酔して土手で横になって熟睡中。
つづく
序章 記者の日記
これは、オランダ・アムステルダムで発見された、とあるベルギー人新聞記者が残した、彼の地における記録のある日記。その内容の一部である。
「その日の昼食時(年月日不明)、新京(現・長春)のホテルで私(記主)は朝鮮人の友人から、おかしな情報を入手した。奉天(現・遼寧)郊外で、化石の発掘が行われているらしい。しかしどういう訳か、軍隊が現場周辺を警固し、近くの道路でも検問が布かれている。噂では、新種の恐竜らしい。何故そんな事をするのか?
そこで私は、友人の制止を無視して、現場に潜入取材を試みた。早朝に新京から特急「あじあ号」に乗って向かい、正午過ぎに、ドイツ人と偽って奉天の街に入った。
家が現場近くと言う現地農民の協力で、馬車の荷台に隠れ、検問も突破。途中で降ろしてもらい、草むらを隠れながら、稲や小麦の田園を抜け、荒れ地に辿り着いた。そこが発掘現場であった。
聞いた通り、日本兵が至るとこに、銃を手に険しい目つきで、周りを見回していた。警固というより、監視である。その下では、多くの労働者達がスコップやつるはしで穴を掘り、荷車や背負子で土を運んでいていた。
それにしても、おかしい。発掘にしては、鉱山採掘と言う感じの労働で、考古学者らしき人物の作業が、一人も見えない。穴の中でも無造作に土を掘り出し、慎重かつ丁寧な手作業をする者など、いなかった。ひょっとすれば発掘は偽装で、実は、秘密基地建造なのでは、と思った。
遠くを双眼鏡で見れば、旭日旗を掲げたテントが設営され、中から研究者らしき人物二・三人と場違いな日本人将校が現れた。紙を片手に、何かを話し合って、崖を指さしていた。
指さす先の地層が出ている崖には、別のテントに覆われ、どうやらあそこが本命の〝秘密〟らしい。テントの周りには、どこよりも多くの日本兵が睨みを利かせ、端から研究者がヒョッコリ抜け出て来た。
中を見てみたい。そう思いに駆られ、誘導作戦を仕掛けた。
テントから離れた場所に、いっぱいの爆竹を用意し、長い導火線に着火。崖のテントに近づき、時を待った。
バンバンと、爆音が鳴り響き、誰もが音のする先を見たら、
『敵襲!馬賊だぁ!ソ連のスパイだぁ!』
私は日本語でメチャクチャに叫び、連中を混乱させた。兵士達は音源に向け戦闘態勢で駆け出し、労働者達は持ち場を離れ逃げ出し、研究者達は書類を持って慌てだした。
案の定、崖下の現場からも人影が逃げ出した。今がチャンスだった。転びそうになりながら迫った。カバンからカメラを取り出し、テントの端をめくろうとした。
その時、後ろから近づく影が見えた。人影だった。振り向けば目の細い、無表情の日本人将校が、こちらを見下ろしていた。もうダメだと、覚悟を決めた。
待っていたが、改めて見れば、ジッと見ているばかりで叫ばない。銃も持ってない。日本刀も抜こうとはしなかった。見ているばかりで、何も言わず立っているばかりだった。
『見たか?』と突然、彼はドイツ語で話しかけながら寄って来た。驚いて『はい?』と思わず母国語(ベルギー語)で答えてしまった。
『ドイツ語はわからないか?』
『いえ、わかります。中は、まだ見てません』
『そうか。それでは見せてやろう』
彼は私の横を抜け、テントに近づいた。何かの罠かと思い、混乱してしまった。
『私の名前はイシハラだ。お前を見逃してやろう。バラしても構わん』
『どうしてですか?』
『君は、何があると思って来た?』
『新種の恐竜の化石だと。でも、ひょっとして、秘密基地だったりして』
『基地なんぞ無い。だが、君が何者だろうと、何をしようと、何も変わりはしない。世界も、時代も、歴史も、変える事なんて、人間には無力だ。誰にも。そして今、君の眼前にあるのは、夢と言う事実だ』
そう言ってその将校は、バッとテントを開けて、中を見せてくれた」
そこで日記の内容は、途切れる。
第一章 黒い出会い
ネットの噂によると、古い伝統あるモノの電脳化に限って、作る過程や使用で、原因不明の障害が起き易いそうです。
○
ミーン、ミンミンミンミン、ミーン。ミーン、ミンミンミンミン、ミーン
ツクツクボーシッ、ツクツクボーシッ、ツクツクボーシッ、ツクツクボーシッ
ジ――――ワッ、ジ――――ワッ、ジ――――ワッ、ジ――――ワッ
真っ青な夏空には、はち切れそうな入道雲が、ムクムクモクモクと立ち上り、街を見下ろしていた。山々に囲まれた古都・大黒市。
プワァ――ン、ガタンゴトンッ、ガタンゴトンッ
『まもなく、四番線ホームに、列車が入ります。危ないですので、白線の内側に、お入り下さい』
ホームの上から聞こえるアナウンスが、駅舎の高架下にも響いた。その響きは彼らにも届き、一同ワクワクとした高鳴りが、各々で胸の奥からしていた。
ズウゥ―――ンッ、キギ――ッ……プッシャ――ッ
ゾロゾロと乗客はホームに降り立ち、黙っている者、話をする者、メガネ操作をする者と色々。
そんな中を、紺色の大きなバッグを肩に掛ける一人の少女が、人込みをかき分けて、真っ直ぐ階段に歩んだ。バッグを持つ本人自身は、辛そうな顔を見せていなかった。
勝手知る場所の足取りで、ズンズン進んだ。髪を降ろした、凛とした顔立ち。デニムの上下の服装で、大人びた空気を醸し出していた。
難なく改札口に辿り着くと、掌を自分に向けた。彼女にしか見えていなかったが、彼女のかけているゴーグル型メガネを通してみれば、小さな切符が存在していた。電脳の切符だった。
切符を改札入口の赤い四角い枠に乗せると、フッと消え去り、枠は緑に変わった。それで、良かった。
改札を通過し、彼女は立ち止った。何かを探す素振りで、キョロキョロ駅前を見回した。少し不安な表情で、首や瞳を動かし、メガネも使おうかと手先が動こうとした。
「イサコッ!」
その声で、ビクッと飛び退くぐらい驚き、膠着しながら左に顔をゆっくり向けた。
ニコニコする四人が迎え、というより待ち構えていたようにいた。
「おかえり、イサコ」
「……たっ、ただいま、ヤサコ……」
恥ずかしそうにイサコは、顔を正面に戻そうとした。それでも、気にせず、満面の笑みのヤサコとハラケン、イサコの叔父叔母夫婦が、ニコヤカにスタスタと寄って来た。
そんな動きに余計イサコの顔は、赤くなっていった。
「おかえり、イサコ」
ハラケンも、暗い顔の中で微笑みかけた。
「おかえりなさい、勇子。疲れたでしょ?車に乗りましょう。またその服ね。まぁいいわ。家に着いたら色々用意してあるわよ」
「おかえり、勇子。荷物持とうか?」
二人の老夫婦も、優しげに聞いて来てくれた。
「あっ、ありがとう……でも、大丈夫」
イサコは毅然と振舞おうと、お迎えに向きを直し、五人で駐車場に歩き出した。
「それにしても、ヤサコ達まで迎えなんて、聞いてないわ」
「ごめんなさい。驚かそうと思って。でも、おじさん達と会って、一緒にやろうって」
嬉しそうなヤサコの顔に、ウンザリしそうにはなったが、いつもと変り無さに、安心も起こった。
「勇子、お母さんは元気かい?便りを聞かないんだが」
心配な顔を叔父は覗きながら、イサコの隣に寄り添いながら歩いた。
「うん、大丈夫。仕事忙しいけど、体調も前より良くなった」
「そうか、そうか。少しは安心したよ」
僅かであったが、微笑みが戻った。
「どれぐらい、大黒にいるの?」
次に、イサコの前を歩く叔母が、問いかけて来た。
「う~ん。できるだけいたい。そう、鹿屋野神社の夏祭りには行きたい!」
振り向く叔母の顔は驚き、すぐに笑顔となった。今までそんな、「笑顔」の表情は見せなかったのに、さらには叔母に対してその顔は出さなかったので、嬉しさがあった。
「えっ!夏祭りに参加するの?」
またしてもヤサコが満面な笑みを見せた時は、叔父の車の前に来ていた。
「う、うん……結構、楽しいし」
「良かったぁ。前よりきっと、楽しいわ!浴衣姿、また見たいわ」
ヤサコのオーバーとも思える反応に、イサコもちょっと驚いたが、自分でも、この反応には驚きの反面、喜んでくれる他人の存在に、「感謝」が沸き起こった。
「きっとみんな、フミエやダイチも喜ぶよ」
すかさずハラケンが、ボンヤリ立ちながら、話題を大きく挟んで来た。しかし、その内容にイサコは、ちょっと考え直し、あの二人には今だ、心を許されていないだろうと思い出し、素直に喜ぶべきか、返事を渋った。
「さあ勇子。行きましょう」
いつの間にか乗っていた助手席の叔母が促し、エンジン音の音が響いた。
「うん」
素っ気ない返事だったが、後部座席に荷物をドサッと入れ込み、乗り込んで戸を閉めると、スーッと窓を開け、残るヤサコとハラケンに顔を出した。
「明日は川辺でバーベキューね!」
先に声をかけたのは、ヤサコの方からだった。
「みんなで待ってるよ」
ハラケンも付言するように、言葉を添えた。
「決まってる。楽しみの一つだから」
「皆さん。お迎えに来てくれて、ありがとう。明日は車で勇子をお送りします」
「また明日」
イサコがそう言い終えると、すぐに窓を閉め、奥に腰を動かした。そのまま、車は発進し、駅前ロータリーから大通りに向け走り去った。
○
ロータリーに残る二人は、しばらくボンヤリ立ったままで、少し顔を見合わせると、クスクスと笑い出してしまった。
「少し変わったね。イサコ」
「そう?」
いつの間にか歩み出した二人に、ハラケンの疑問から会話が生まれていた。
「最後に会った時より、笑ってた」
「前も結構、笑ってたわよ」
「いや、前は、何て言うか、〝作った笑顔〟な感じに思えたんだ。自分の正直な部分を隠していたように見えた。でも、さっきのは、本当に嬉しそうな笑い方だったから、変わったなぁ、って思えたんだ」
「……そうかもね。うん。その方が、あたしも嬉しい」
会話は途切れたが、ゆっくり歩む二人は、楽しそうな背中を揃ってしていた。
「待ちなさいよっ!チビスケーッ!」
「るっせ―っ!ブスエッ!」
ふと気付けば、道の向こうからいつもの騒がしさが、揃って走って来た。中学生になっても変り無いフミエとダイチである。
競って走る小柄な二人は、お互い睨み合いながら、それでいて真っ直ぐ駅に直進していた。そのせいか、前方のヤサコ達にまだ、気付いていないようだった。
ヤサコ達の横をすり抜けた直後、二人はほぼ同時に急停止して、振り向いた。ようやく気付いたらしい。
「あら、ヤサコッ!どうしてここにいんの?」
「おっ、ハラケン!何だ、ヤサコと一緒で?」
揃って声をかけると、お互いにムッとした顔を向け、プイッとそっぽを向いた。
「うん、駅でイサコを迎えに、ハラケンと一緒に行って来たの」
「そうなんだ。もう、イサコの叔父さん達と一緒に、家に行っちゃったから、僕達帰るところ」
二人の言葉にフミエ達は、眼を丸くし、度肝を抜いたような顔を、またしても揃って見せた。
「「なっ、何だってーッ!もう行っちゃったのーッ!おいちょっと!お前が邪魔しなきゃ、間に合えたはずなんだぞ。どうしてくれるんだっ!」」
面白い具合に二人の声と仕草が、向かい合わせで同じになり、ヤサコとハラケンは思わずプッと笑ってしまった。
しかも、二人とも、嫌いなはずのイサコを迎えに行こうとして、途中で鉢合わせになってしまったらしい。何だかんだ言って、やはり二人とも、イサコを悪くは思えないらしい。
「だったら、ここで決着つけましょ。ダイチッ!」
「望むとこだ、フミエッ!」
バッと二人は向き合いながら一歩下がり、電脳戦の構えを見せた。
「ちょっと、止めてよ二人とも」
「ヤサコ、黙ってて。もう今日と言う今日は、我慢できないのよ」
いつもの台詞に聞こえるフミエの言葉とも、ヤサコには思えた。
「あぁ、そうだよ!第一、もうサッチーいないんだから、ここでバトルしたって、誰も―」
「えっ、聞いてないの?」
ハラケンの何気無い一言に、その場の空気はゾクッと緊張した。
「昨日大黒市が、改めてキュウちゃんだけを再導入するって、掲示板に出していたよ」
「…………えっ?そっ、それって、ここで違法な電脳技、使おうとしたら……」
っと、ヤサコが言いかけた直後、
……ヒューン…ヒューン……
道路の向こうから、懐かしい球体が四人に飛んで迫って来た。キュウちゃんである。しかも、二基。
その迫る敵に四人は固まり、フミエ達に至っては、お互い視線で無言の会話を交わしたかと思うと、
「じゃっ、じゃあ、また明日、川辺でっ!じゃあね、ヤサコ!」
「おう、じゃあなっ!決着はお預けだ―ッ!」
そう言うが早いか、二人とも、どこかへ走り去ってしまった。
残されたのは、またしてもヤサコとハラケン。また顔を見合うと、クスッと笑い、何も言わずコクリと頷くと、帰路に向かってバッと走り出した。
無論、キュウちゃんは誰かを追いかけるに決まっている。もっとも、四人には後ろを振り向く暇が無いので、追跡しているのかはわからなかった。
そんな不安な状況でも、ヤサコとハラケンは、横の人と一緒に走って逃げている事が、楽しいようにも思えた。口には出さずとも、そうだった。
○
日差しの強い午前。キラキラと川の水が輝きながら流れ、蝉がけたたましくなる中、草むらの多い砂利の広がる川辺に、バーベキューする一団がいた。
ヤサコ達である。ハラケンやイサコ、フミエにダイチ、アイコ、京子、ヤサコの両親、大黒黒客のガチャギリ・ナメッチ・デンパ・アキラ、玉子オバちゃん、タケル、イサコの叔父叔母、ダイチチにマイコ先生、呼んでもいないウチクネ先生だった。メガばあも行きたかったが、腰の具合で自宅療養だった。
みんなの恰好は、それほど去年と変わりが無かった。とは言え、男子の短パンは見られなく、長ズボンがほとんど。ダイチに至っては、へそは出していない。女子達はかなり大人びて、赤や黄色のキャミソールやタンクトップが多い。イサコは水色Tシャツを着て、黒い膝までのピッタリしたズボンを穿いていた。叔母が用意してくれたようだった。
あの一連の「メガネ事件」後、変化は多少あったが、相も変わらずといった具合だった。
メガばあの腰はあまり良くなく、杖を使うようになった。と言っても、いつもの性格は健全で、スキルもさらにアップした。
タケルはハラケンの家に御厄介になっており、ハラケンとは仲が良いらしい。それでもやはり、兄・宗助を忘れず、健気に行方を捜し続けている。
オバちゃんは金沢の技術系大学に入学し、大黒から通っている。家族は東京か関西の大学に行ったらと勧めたが、「この街が気に入ってるので」という理由で断った。本心はハラケンから離れたくないからで、しかも最近はタケルも心配らしい。
大黒黒客はダイチの下、中学生になっても同じメンバーで結成しており、新部員の見込みは無いそうだ。目的も、メタバグの稼ぎと違法な電脳技術向上。同じままだった。「チビスケ」とは言われたが、少し背の伸びたダイチは、柔道部ではかなり優秀らしい。
京子の「ウンチ!」は、もう小学生になったので、滅多な事では言わなくなり、学校では人一倍優しい子と、言われているらしい。ヤサコの当面の不安は、メガばあが京子を、電脳探偵局会員番号九番として入会させようとしている事。
フミエは文学に興味を持ち出したらしく、アイコと一緒に文学部で創作小説を書いている。ただ作品テーマは、架空戦記や宇宙戦争といった激しい戦いのある、SF小説だそうだ。探偵局は変わらず参加し、活発な少女である。
そしてハラケンは、あの一件後も寡黙なのはそのままだが、笑顔が多くなって、体調も良好だった。ヤサコと一緒に民俗文化研究部を立ち上げ、仲が好い。ただハラケンは、研究に没頭しやすく、部員は少ない。
○
「それにしても、天沢さん。元気そうで良かったわ」
「あっ、ありがとうございます、マイコ先生」
マイコ先生との久しぶりの再会に、イサコは照れくさそうに下を向いてしまった。
「さあさあ、良い焼き加減ですよ。皆さん遠慮なさらず、食べて下さい!」
ダイチチが長い箸を手にコンロに向かって、満面の笑顔でみんなを招いた。
「しかし町内会長さん、ここでは火の取り扱いは制限されているんじゃあ?」
「大丈夫ですよ、ウチクネ先生!私が全面的に許可しましたから。ガッハハハハハ」
こういう時は、持つべき者は町内会長さん。っと、誰もが一瞬、思ってしまった。
「おいっ、子供共!ちゃんと野菜も食わんと、肉抜きだからな!覚悟しておけ!」
ムーっと真っ先に膨れたのは、ニンジン嫌いの京子だった。そして、子供達はさっきの一瞬の思いを、すぐに取り消した。
「いっただきまーす!」
みんなが一斉に食事の挨拶をすると、一斉に箸をコンロの上にのばし、各々の紙皿に乗せた。
コンロには、ジューシーに焼けたや焼き肉や骨付きカルビ、豚トロ、手羽先、あら挽きソーセージ、アルミでレモンと一緒に包んだニジマスの蒸し焼き、焼きイワナ、アサリ、ニンジン、ピーマン、シイタケ、マイタケ、玉ネギ、アルミで包んだバターとジャガイモ。さらにそばでは、ダッチオーブンで焼いたパン、飯ごうのご飯も用意されていた。
誰もが、バーベキュー料理に舌鼓を打って喜んだ。しかも味付けは、ナメッチの料理の腕の賜物でもあった。
「ナメッチってホントお料理、上手よね!」
「本当、とくに味付けが絶妙よね!」
アイコやマイコ先生など女性陣は、揃って絶賛した。
「いっ、いやぁ。あんまりこういう料理より、カレーとかあり合わせで作れるようなのが、好きッス」
「そうそう、ングッ、前に作ったカレー、すんげぇウマかった。でも、これもかなり、モグッ、ウメェぜ」
「美味しい、美味しい」の言葉が飛び交い、賑やかさは一層強まった。ほとんどが立ち食いで、イサコの叔父叔母やヤサコの母はパイプ椅子に腰掛け、横には調味料や飲み物を乗せたクーラーボックスのテーブルが置かれてあった。
京子は我慢しながらニンジンを口に入れ、ダイチ達も嫌々野菜を頬張った。食べなければ、せっかく楽しみの肉が食えないのだから、たまったものではない。
「ねえねえ、聞いた聞いた?例の子の恋事情」
「今大学では、身体的影響のレポートを書いてます」
「そのメタバグ、音もいいけど、色もキレイなんだ」
「へぇ~、ムグッ、金沢でも稼ぎは良いんだなぁ」
「はいあなた。アサリとしょう油」
「今日はオフでも、子供の前ではビールは飲めませんよ~」
「え、僕?嫌いなものは、とくに……原川さんちはみなさん、優しいです」
「ええ、金沢にも友達はいますよ。一人だけですけど」
各々、隣同士で会話を楽しみ、食事は盛り上がっていた。
ヤサコがふと気がつくと、イサコの叔母が少し涙ぐんでいた。彼女の視線の先には、マイタケを食べながら、京子と戯れているイサコの姿があった。とても楽しそうな笑いが、叔母には嬉しいようだった。涙の訳を、確かめたいともヤサコには思ったが、それは触れるべきでないと考え直し、食事に戻った。
食事が一段落すると、女性陣はコンロの周りで井戸端会議のように雑談が始まり、男性陣は川岸に寄って行った。
すると、ダイチチがおもむろに、足元の平たい石を手に取ると、一気に向こう岸に目がけて水面に投げ飛ばした。石は水生の生き物のようにジャッジャッと、五回飛び跳ねた。
この遊びに男子達は、一同に驚いた。今まで見た事の無い曲芸を目にしたような面持ちで、流れる川面を見ていた。
「とっ、父ちゃんすげえ!」
「へっ、ざっとこんなもんだ!」
今度はウチクネ先生も、「ならば」と石を投げたが、二回で沈んでしまい、シラーっとした空気に変わってしまった。続いてヤサコの父は、四回だった。
こうなれば男子達も黙ってはいられず、みんな見よう見まねで、次々と石を投げ飛ばした。しかし、やり方をちゃんとは知らず、全員が一回で沈んだ。
そんな情景を、遠くから女性陣は眺め、男と言う連中の熱中ぶりを理解しようとした。
「何でああやって、無気に何のかしら?まぁ、ダイチなら当然かもしれないけど」
「本当よねぇ」
フミエとアイコは、意見が同調して、呆れていた。
「ハラケンやタケル君までやるなんて」
ヤサコは理解に答えが、まだちゃんとは理解を見つかってなかった。
「でもね、ああいう事をして、楽しんだりするのが、男ってものよ」
「そうですね。昔は、私も友達とよく張り合いましたよ」
ヤサコの母と同意見をしていたのは、体を楽にするイサコの叔父だった。
見ていれば、男子達は大人から教わった方法で、すでに上達し、ほとんどが五回飛びを一回はしていた。
「ホーッ、うまいもんだな」
「父ちゃんよう。俺達の電脳技には、モノを投げる動きがあって、投げ方によって真っ直ぐ行かなったりすんだよ。それと似たようなもんだよ」
「なるほど。飲み込みが早い訳だ」
これには大人達も驚き、納得した。
すると、いつの間にか、男性陣にイサコが混ざっており、男子達は無表情な顔のイサコ気づき、手を止めた。
その瞬間、イサコの手から石が飛び出し、川面を飛び跳ね続けた。
ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ、チャッ、チャッ、チャッ、シャ―――ッ、コツンッ
七回は行ったかと思うと、最後辺りでスーッと水面を滑りながら、向こう岸そばまで行ってしまった。それには、大人も驚き、思わず手から石がこぼれ落ちてしまった。女性陣も同じく驚いた。
何も言わずイサコが女性陣に戻ると、残された男達はほぼ一斉に、石を銃弾のように川面に投げ続けた。余計その情景に、女性陣は呆れ返った。
戻って来たイサコは一瞬で、驚きの顔に変わり、辺りを見回した。
「どうしたの、イサコ?」
その仕草に、ヤサコは気付いた。
「おいヤサコ!京子はどこに行った?」
「え?」
ヤサコも周りを見れば、さっきまでいた京子の姿が、見当たらなかった。
「大変!京子がいない!」
そのヤサコの衝撃に、ヤサコの母も思わず立ち上がってしまった。
「えっ!きょっ、京子が!はっ、早く探さないと!もし、川にでも落ちていたら……!」
二人の混乱状態は、狂気と紙一重にも見えた。
「おおっ、落ち着いて下さい。まだそんなに、遠くに行ってはいないと思うけれど…」
落ち着かせようとするオバちゃんも、半ば挙動不審だった。
「探すなら簡単な方法がありますよ」
その慌て振りに、フミエは落ち着いて答えた。
「メガネのGPS機能で探せばいいじゃない」
「あっ、そうか!それがあったわ!」
ヤサコも落ち着きを取り戻し、メガネでウィンドウを開き、位置を確認した。もっとも、メガネをしていない大人達には、何をしているのかわからず、それに頼っていいのかも、わからなかった。
ウィンドウの地図では、川と川原が映り、自分達の位置と、京子の位置が出て来た。京子の位置は少し離れた上流の岸におり、水の中ではなかった。
「よかった、川の中じゃないわ。向こうにいるみたい。あたし、迎えに行って来る」
そう母に言うと、ヤサコは駆け出し、母は見送るしかなかった。
「おい、ヤサコ!私も行く!」
「あっ、待って、アタシも」
続いてイサコとフミエも、後を追って走った。それにハラケンも気づき、石投げを止め、同じように後を追った。疲れだしたダイチとデンパも気づいた。
ちなみにマイコ先生は、泥酔して土手で横になって熟睡中。
つづく
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