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第三章 輝く夏空の下
  つづき

 十五時頃、図書館内にもすさまじい雨音と雷鳴は、否応無く響いていた。外は薄暗く、残された日の光は、不気味な湿気を含んだ空気に、辺りを照らした。
 帰宅しようと出入口に立ったヤサコとハラケンは、大粒の雨を前に、見入っていた。
「……すごいわね」
「……うん、すごいね」
 ボンヤリとしていると、ハラケンがハッと我に返り、悪い事態に気づいた。
「大変だ」
「えっ、何?」
「ファイルや財布だけで、傘を持って来なかった」
「天気予報、見なかったの?」
「いや、見てない。そういえば、新聞も読んでなかった」
「なら、あたしの折り畳み傘で帰りましょう」
「えっ!」
 頭を抱え、困っていたハラケンが、ギョッと驚いてしまった。それがどういう状況かは、男として慌ててしまったが、別に彼女は考えていないようだった。しかし、
「……あら?……あれ?」
「どうしたの?」
 カバンの中を手で探っていたヤサコが、慌てだした。
「ヤダ、あたしったら。持ってきたつもりが、忘れて来ちゃった!」
 無言の間がしばらく続き、再び二人は大粒の雨を見て、途方に暮れた。すると、
「あら、あなた達」
 後ろから聞き覚えのある、女性の声が聞こえた。
「あっ、キヨコさん!」
 中くらいの段ボール箱を抱えながら、事務室に行こうとするキヨコだった。
「ひょっとして、傘無いの?」
「あっ、はい……それで僕達、困っていたんです」
 ちょっと、二人そろって恥ずかしながら、状況を認めざるをおえなかった。
「あっ、ちょっと待ってて」
 そう言うとキヨコは、急いで事務室に入ると、すぐに大きい半透明な傘を持って来た。
「はいっ、貸してあげる!」
「えっ!いいんですか?」
 思わずヤサコは、驚きながら聞き返した。
「もちろんよ。図書館は利用者さんの為に、いつもそういう気配りをするの。さあさあ、遠慮ならずに使って」
 半ば無理に渡され、気付けば彼女は、サっと手を振って、ササっと裏手に消えた。
 仕方なく二人はその傘で、土砂降りの中を行く事になった。
 トボトボと歩む二人は、どこかぎこちなく、簡単に相合い傘を楽しめなかった。
「そっ、それじゃああ、まず、ヤッ、ヤサコの家に、送るよ」
「えっ?いっ、いいわよ!途中のコンビニで、傘買えば」
「いっ、いやあ、それはもったいないよ。ヤサコの家の方が近いし」
 それは違う。実際はハラケンの家が近い。今の言葉は、間違いか嘘かはわからない。それでも二人は、トボトボと歩む。
 ピシャピシャッ、シタリシタリ
 そんな二人は気付かなかったが、図書館の窓から、後ろ姿を見る者がいた。
「…………どうして……あの二人から、〝あれ〟の反応が?」
                 ○
 日が沈み、ヒグラシからコオロギに鳴き替わる頃、雨は落ち着いた。ハラケンはヤサコを家まで送ってもらったが、彼は疏水の橋ですぐに立ち去ってしまった。ヤサコは、それほどの礼も言えなかったので、少し後悔の念が残ってしまった。
 家にヤサコが入ってみれば、来客四人は去った後だった。
「ヤエがクルクルとんだ!」
 京子の嬉しそうな報告で、その時交わされた話の全てをヤサコは知った。オバちゃんの信念、イサコの弁護、京子の勇気、ヤエにとって嬉しい雨。メガばあの言葉もあって、その様子が見えるように彼女は思えた。
 部屋に戻れば、箱からヤエが霧と一緒に飛び出してきた。胸元に飛び込むと、すぐに肩に動き、スリスリと頭を寄せた。そんな姿に、楽しいという心が現れ、嬉しかった。
 そのままヤエを連れてリビングに戻ると、ヒューンとソファーに座る京子へ、ヤエは飛んで行ってしまった。そんな動きに京子は気にも留めず、ジ―ッとテレビを見ていた。ヤエも一緒に見始めた。
 ふと、その番組を見てみると、何か、見過ごせないような内容に思え、ヤサコも京子の横に座った。番組には中年のアナウンサーと老いた専門家二人が、並んで語っていた。「電脳時代の妖怪論」について。
『先生方は電脳メガネをお使いにはなりますか?荒又先生は?』
 アナウンサーは、横のふくよかな体の「アラマタ」と呼ぶ人物に顔を向けた。丸いレンズのメガネをしてはいた。
『いや~、自分はこの通り、普通の眼鏡ですよ。私の子供は使ってますがね。そりゃあ、一応持ってはいますが、使う時しか使いません。瑞樹先生はどうですか?』
 隣に腰掛けていた、「ミズキ」と呼んだしわだらけの高齢な人物に、話が振られた。どうやらアラマタにとって、ミズキは目上の人らしい。
『…………フハッ……あっ、ミズキさんは、普通のメガネしか持ってません。ところで、今日は何の話……あっ、そうそう、コンピューターのお化けについてですね?』
 ミズキの寝ぼけ眼な、すさまじいマイペース振りに、アナウンサーもアラマタも、タジタジな顔を見せた。
『大体、あのメガネは発売された時は、「お化けが見れるメガネ」と宣伝したそうじゃないですか。それなら見えて当然でしょう。何も不思議じゃ、ありませんよ』
『はあ……それは、確かに……』
 アナウンサーは返事の言葉に詰まってしまい、話の進行が止まってしまいそうだった。
『それにしても』ここで、アラマタが言葉をつなげてくれた。『近年の、電脳世界の都市伝説は目まぐるしく、多種多様です』
『先生はその要因を、どう見ておりますか?』
 アナウンサーはホッとした顔となり、話が続けられそうだった。
『やはり、電脳メガネによる電脳インフラの急激な広まりと、使用する子供達でしょう。大人には無い、彼らの心が学校の怪談くらいに、生み出したんです。また、科学の発展で「妄想」と呼ばれた類は、滅ぼされたはずでしたが、むしろ姿を変え、生きているんです。第一、こうゆう事は、今に始まった事じゃありません。「偽汽車」をご存じで?』
『偽、汽車?』
 アナウンサーだけでなく、聞きなれぬ名前への疑問は、テレビの前にも広まっていた。
『明治初期、全国に鉄道が配備されましたが、各地で怪現象が起こりました。時間外に蒸気機関車の姿や音が線路にしたり、走行中に真正面から汽車が現れました。その現場には狸や狐、ムジナのひかれた死体が見つかり、人々はそれが犯人だと噂し、鉄道開発で山林を荒らした人間への、抗議だったという事です。
 つまりその類は、人類文明の発展と共に同調して、生き続けると言う事です。他にも無人の自動車や漁船が目撃されます。そして、サイバーゴーストもその一連、あるいは、つくも神の継承と言えます』
『つくも神?』またしても、聞きなれぬ名前が出て来た。
『そりゃあね』これにはミズキが答えた。『簡単に言えば、ゴミのお化けですよ。器物も百年経てば魂を宿し、粗末に扱って捨てられたら、怨んで夜の街を歩くんです。ええっと……サイバーゴーストも、無生物なのに心を持った連中と言えるんです。最近は、巷で有名な、妙なウィルス……ええっと……イガグリ?』
『イリーガルです』これにはすかさず、アラマタがつっこんだ。
『そうそう、そのイリーガルってのは、ウィルスのお化けなのでしょ?「ミチコさん」やら「アッチの世界」やら、多いですなあ。あの類はもう聞く限り、妖怪ですよ!』
 ミズキの指をブルブル振りながらの真剣な説明に、二人は圧倒されそうだった。
『人間がいるから、妖怪も現れるんです。そういうのを感じるのは、いつも子供なんです。だから、大人は彼らを認めにゃあいけませんよ』
『なるほど。つまり、彼ら妖怪は、我々の進む世界に、ついて来るとい事ですね?』
 ようやく話が追い着いたと思い、アナウンサーは言葉を添えてみた。
『何言っとるんですか!』大声な即答の反論が、スタジオに響いた。
『ついて来るんじゃあなくて、我々が連れてきたり、生み出すんです。もともと妖怪は、自然の精霊達で、人間は自然の中から彼らを見出し、生み出したんですよ。人間が空を飛ぼうと、海に潜ろうと、宇宙に行こうと、電脳世界を作ろうと、人間がいるから、妖怪が見えるんです』
『そう言う感性は、古代人の純粋な心に近い子供達に、まだ残されているのですね?』
 アラマタは、まるで弟子のように賛同していた。
『そうそう!そう言う事なんです!最近の子供は、まだ鈍くなくて良かったですよ。これからもね、いろんな電脳のお化け出ますよ!楽しみなぐらいですよ、フハハハ!』
「ごはんよ!」
 母の呼びかけで、ハッとヤサコはテレビから現実に戻れた。
                 ○
 夕飯が済み、風呂から上がり、髪の毛を拭いて寝床に帰ると、すでに京子はベッドでスヤスヤ寝息をたてていた。枕元を見れば、ヤエがとぐろを巻いて、同じように眠っていた。そんな光景は、一年近く前にあった。ほんのちょっと辛い思い出に感じ、すぐにベッドへ上がった。
「……寝よ…………夢?」
 ふと、様々な記憶と現状が、ヤサコの中で交錯した。
 かつて、夢で鳥居の階段、すなわちアッチの世界を見る事があった。メガネをかけて寝ている間に、偶然にも最後のコイルスノード、デンスケによってアッチに夢でアクセスできていた。
 夕べの夢。場所はまるで違ったが、あの雰囲気はアッチの世界とそっくりに、ヤサコは感じた。〝鳥居の橋〟という、別のアッチの世界なのか。しかし、コイルスノードは手元にはいない。それはすぐに、ヤサコにも理解できた。またすぐに、推測も出て来た。
「……ヤエ?」
 その可能性は、大いにあった。とは言え、今この場で、自分だけで判断するのは難しかった。明日みんなに話せば良いが、待ち遠しく、ハラケンに電話をしてみる事にした。ベッドに腰を落ち着かせると、さっそく指電話で連絡をとった。
 プルルルルルッ、プルルルルルッ、ピッ、
『もしもし。ヤサコ?』
 通じた。当たり前であったが、ヤサコには心なしか安心できた。
『どうかしたの?』
「あっ、ごめん。ちょっと気になる事、あって。今、大丈夫?」
『うん。大丈……あっ、ちょっと待って…………ごめん、ごめん。今、オバちゃんが来ちゃって。それで?』
「うん……変な事、聞いちゃうんだけど、いいかしら?」
『別に、構わないけど。何?』
「うん……それがね――」
 ピリリリリリッ、ピリリリリリッ、
 いきなり、別の連絡がヤサコのメガネに、かかって来た。驚いて、電話の主を確かめると、なんとイサコだった。
『どうしたの?』
「あっ、ごめん。ちょっと待ってて」
 そう言うと、ハラケンとの回線を保留で止め、イサコに出た。
「もしもし?」
『もしもし、ヤサコ。こんばんは』
「あ……こんばんは。どうしたの、イサコ?珍しいわね」
『今、いいか?聞きたい事あって』
「え?何?」
『ヤサコ、あんた夕べ、変な夢、見なかった?』
 ドクンッと、明らかに心臓の鼓動が、跳ね上がったのを感じた。
『どうかしたか……聞いてるのか、ヤサコ?』
 今、あのハラケンに話そうとした話を、イサコに話すべきか、迷った。迷いは意外に早く、彼女の中で決した。
「ねえ、イサコ……」
『何だ?』
「その話なんだけど……今は、話せない。大事だと思うから、あした丑子神社で、会えるかなあ?」
『別に、構わないけど。どうしてだ?』
「ごめん、本当に今は、話せない」
『…………わかった。それじゃあ、あした』
「うん、ありがとう。おやすみ」
『……おやすみ』
 ピッ……ピッ、
「もしもし、ハラケン?」
『あっ、ヤサコ?』
 彼は、切らずに待っていてくれていた。
「さっきの、話なんだけど…………」
 ヤサコは、イサコと同じ約束、丑子神社での集合を話した。しかし、イサコの事は話さなかった。否、話し忘れた。
                 ○
 シャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワ……
 ジ――ワッ、ジ――ワッ、ジ――ワッ……
 騒音と言えるほどの、セミの大合唱。小さな丑子神社は、快晴の強い日差しを、うっそうと生い茂った鎮守の森が、境内全体に日かげを作った。セミ達はここに集結し、わずかな命を音に燃やしていた。
 そんな昼下がりに、一人、また一人と、子供達が集まって来た。合計四人と一匹。ヤサコ、イサコ、ハラケン、京子、そしてヤエだった。
 誰もが汗をダラダラとかき、手で扇いでいた。集まったのは、丑子神社本殿横、稲荷の祠の並んだ朱色の鳥居。そばの大木の根元だった。
「おはよう、ヤサコ」
「待っていたぞ、ヤサコ」
 ハラケンとイサコは先に到着し、ヤサコを待っていた。二人がはち合わせてしまったので、お互い混乱し、話の具合で、ようやく同じ約束で来た事がわかった。
「おはよう、イサコ!ハラケン!」
 最後に来たヤサコは、京子を手で引いて、ポシェットからヤエを出して、現れた。
「おい、どういう訳だ?ヤサコ!」少し、イサコはピリッと苛立っていた。「どうして昨夜は、ちゃんと質問に答えず、今日こんなとこで、聞いてもいない研一も一緒に、お前の答えを聞かなければいけない?」
 立ったままのイサコは、良好になった縁が、ぶちぎれそうなほどの、迫る口調だった。
「そうだ、ヤサコ。理由を聞かせてくれ。ひょっとして、僕達が一緒じゃないといけない、話なの?」
「……うん。そうなの」
 ヤサコは京子と手元のヤエが見上げるなか、息を整え、話し出した。
「実はね、夕べ、あたしがハラケンに聞こうと思っていた事と、イサコが聞いてきた事は、同じなの」
「「……え?」」
「あたし、ヤエが来た晩、不思議な夢を見たの。霧の中で声がして、声のする方へ行ってみたら、鳥居の入口の、木でできた橋に辿り着くの」
「「……え!」」
 一斉に二人は、強張るように驚いた。
「……ハラケン、どう?」
「……うん、見た。同じ夢を、僕もあの日の晩、見た!」
 ジッと見るヤサコ眼差しに、固まったまま答えた。
「私も見た。その事を、なぜだか確信は無かったが、お前も見たように思えて、電話したんだ!」
 さすがのイサコも、驚きを隠せず、淡々と答えた。
「その原因なんだけど、やっぱり……」
 ヤサコの動く視線に、二人はつられてそちらに顔を向けた。ヤエだった。
「まさか、ヤエが?」
 真剣な顔付きをしながら、ハラケンは見つめ、イサコは半ば睨むようだった。
 その視線にヤエは、ビクッとするように、首を引っ込めた。
「しかし、あれがアッチだとすると、なぜヤエのそばにいなかった私達も、夢を見たんだ?」
 イサコからの疑問は、今までの法則に反する事を物語る、事実だった。
「ウン、確かに。第一、それはコイルスノードだからできるけど、ヤエはそれではなかった。だとすると、今までとは別の方法で、ヤエは僕達の夢にリンクしたのかなあ?」
 ハラケンの予想が答えなのか、わからない為、誰もが首を傾げるばかりだった。
「それじゃあ……あの夢の意味は、何だろう?アッチなのかしら?」
 次は夢判断に移ろうとしていた。
「あの時は、『帰りたい、帰りたい』って聞こえた」
「うん、あたしも」
 イサコの回想にヤサコは同調していた。
「ヤエの、事かなあ?」
 ハラケンの何気ない意見に、二人はハッとそちらに向いた。
「ひょっとしたら、あの夢はヤエの夢だったんじゃあないかしら?帰りたいって言うのは、やっぱりヤエの事よ!」
 ヤサコは答えに近い結論を出してみたが、二人とも素直に認めにくく、「う~ん」という返事になってしまった。第一、当のヤエはいつの間にか、京子と一緒に灯ろうの周りを飛んで、呑気に遊んでいた。
 そんな様子に、彼らは心落ち着く光景に見え、言い知れぬ安心が誰にも起こった。
「……やっぱり、ヤエにも帰る場所、帰りたい場所があるんじゃないかなあ?」
「え?」
 ハラケンはハッとするように、イサコはチラッとヤサコに顔を向けた。
「以前のヒゲ達やクビナガみたいに、人の心から生みだされたイリーガル達には、帰りたい場所や行きたい場所があって、彼らはそこを求めて、電脳世界をさ迷っているんじゃ、ないかしら……」
 詩を詠むようなヤサコの意見に、ボーっと二人は聞いていた。
「そう言えば……」イサコが、パッと何かを言い出した。「昔のドキュメンタリーで、アジアのどこかの草原にいた馬乗りの男に、『あなたの祖国はどこ?』ってスタッフが聞いたら、『それを探しているんだ』って返事して、去って行くシーンがあった。大体の人はそういう風に、そういうのを探すんじゃないかなあ?」
 彼らが物思いにふけってる間も、ヤエと京子は遊んでいた。すると、
「あら、ヤサコ!」
 正面の鳥居から、サンバイザーをかけたフミエが、小さなビニール袋をぶら下げて現れた。
「どうしたの?みんな、揃いも揃って?」
 ズンズンと進むフミエに、ヤエと京子は反応し、
「フミエおねえちゃん!」
「クウヲオン!」
 パッと駆け出して、京子はフミエの腰に、ヤエは肩に飛びついた。これにフミエは「ギャッ」と、乙女に似つかわしくない声を荒げ、「ワワッ」と倒れそうになった。
「もう、脅かさないでよ、二人とも!」
 そんな様子にヤサコ達は、クスクスと小さく微笑み、否、笑っていた。
「ギャハハッ!ダッセー!」
 いきなりあさっての方から、ダイチの高笑いがしてきた。
 みんながそちらを向けば、道路の真ん中で、お祭りの法被を着た大黒黒客達、ガチャギリ、ナメッチ、デンパ、アキラだった。ムッとした反応をみせたフミエだけだった。
「あらダイチ君。どうしたの?みんなそろって、その格好」
 ヤサコが気付いたが、見れば、誰もが揃いの鹿屋野神社祭りの法被で、手に丸めた大きなポスターをいくつも持っていた。
「うん、それがね」答えたのは、のんびりとした声のデンパだった。「ダイチのお父さんのお手伝いで、これをいろんな所に貼るんだ。あとでお礼もらえるんで、僕らも手伝ってるんだ。一緒に電脳のポスターもつけるんだ」
「まあ、ちゃんとした礼のようだから、損は無いと思ってな、付き合ってるわけよ」
 クールに付言したガチャギリだったが、汗に心底キツそうだった。
「それにしても、今年はお祭りが、八月ってのは気分が合わないっすね。暑いっすよ」
 ナメッチの言う通り、理由は不明だが、今年の鹿屋野神社祭りは八月に変更されていた。
「それはそれとして、アキラ!」
 フミエがキッと、デンパの後ろに隠れたアキラを睨みつけた。
「あんた、まだこんなバカ不良どもに付き合ってるわけ?」
「いっ、いいじゃないですか!それぐらい僕の人生に、自由な権利はあります!」
 顔を半分出すアキラから、必死の人権主張がとどろいた。
「〝バカ不良〟とは何だ!」
 アキラ以上にダイチが怒った反応を示し、ポスターをナメッチに渡すと、ピョンと境内の低い塀を超え、ダダッとフミエに迫ろうとした。
 別にヤサコ達は止める気はなかったが、突然ヤエが、ダイチの目の前に現れた。すると、尾を使って、濃い霧を顔に浴びせ、驚かせた。すると今度は、フミエにも同じようにしてみせた。霧を浴びたメガネは、ビシッと音を起こした。
 当然、二人とも怒ってヤエを睨んだ。
「「何すんの、ヤエ!メガネ故障したらどうすんだ!」の!」
「ククゥオオン」
 あざ笑うようにヤエはヒョイッと宙を舞い、追いかける二人をさらに挑発した。
 そんな様子は、他から見れば遊んでいるようにしか見えず、みんな笑って眺めていた。おまけに、彼らの後を京子が「ワーイッ」と走っていた。
 これにヤサコはハッと気づいた。ヤエはワザと二人を怒らせ、こんな楽しい状況を作ったんじゃないだろうか。それは同時に、二人のケンカを邪魔しようとしたに違いない。確かに他から見れば遊んでいるように見え、混ざればきっと楽しいだろう。
 そのうち、黒客達も境内に入り、ヤエと遊んだ。木々の枝葉に隠れるヤエを見つけたり、尾で宙に絵のような何かを霧で描いたり、やっぱり追いかけっこしたり。
 デンパは何かを懐かしむように、ナメッチは逃げるのが多かったり、ガチャギリは意外にムキになって走り回り、アキラは興味心身にミゼットで撮影していた。もうすでに、ダイチとフミエは、ケンカをやめていた。
 木漏れ日がキラキラとし、セミがうるさく鳴く下で、子供達は中学生でも楽しい夏休みを、不思議なヤエと一緒に過ごした。
                 ○
 その様子を、銀色のワンボックスカーの窓の隙間から、青年(?)達が監視していた。
「アレなのか?」
「アレだな」
「んっ。アレやね」
 彼らは、一区切りつくと、席に各々座り込み、ウィンドウを開いた。
「間違い無いな。反応はアレだ」
 力強い透き通った声の男は、黒いTシャツに白い長袖ワイシャツを羽織り、使い古しのジーパン。狐目で、ストレートヘアの黒髪をしていた。二十代前半の歳か。
「以外に早く見つかったな。思った以上に楽かもな」
 落ち着いた声の主は、小さい円らな目で、赤いニット帽を被り、下からは茶色いドレッドヘアが伸び、紫のTシャツで、また使い古しのジーパン。さっきの男より、年下である。
「さっさと捕まえちまおうぜ。何で、待たなあかんのや?」
 口調の軽い男は、パーマヘアに黄色いキャップ帽を被り、緑のタンクトップで、やはり使い古しのジーパン。肌は焼けていた。彼がこの中で最年少のようで、少し寸胴。
 そして、誰もがゴーグル型メガネをしていた。
「わからん奴だな。今はその時じゃない。計画的に行くんだ」
「へっ。計画的だからって、他にも狙ってる奴らいるんやろ?早うせんと、とられるがな」
 最年長の男の諭す言葉を、青年はちゃんと聞こうとしなかった。
「リーダーの言う通りだ。フリーの俺達がチームを組んだおかげで、アレが見つかったんだ。我慢せねばならない時だ」
 レゲイな男が、〝リーダー〟と呼ばれた男の側に着いた。
「けっ。チーム言うたかて、いつ裏切るかわからんで」
「お前はホントにわからん奴だな。アレが手に入ったところで、アレはお宝の手がかりに過ぎない。お前が独り占めしても、手に入らないも同然だ」
「……っち。わーったよ。言う通りにするがな」
 これ以上のリーダーへの反論は無駄とわかったらしく、静かになった。
「ところでリーダー、問題はあのガキどもだ」
 レゲイな男は念を押すように、言い付け加えた。
「わかってる。何、取るに足らん、容易い連中だ。すぐに片付く。絶対このヤマ、成功させてやる。『データY・D』を手に入れて、お宝ゲットだ!」
「「うむ!」」
 意気込む三人の乗った車は、神社から遠く離れた場所に違法駐車されており、アスファルトの陽炎で、ヤサコ達からは見えづらかった。
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